大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1671号 判決

主文

本件控訴は孰れも之を棄却する。

理由

検察官の控訴趣意について。

(前略) 記録に基き審按するに

原審第一回公判に於て原審検察官は押收保管に係る薬品に基き該薬品が麻薬なりや否やの鑑定を請求し原審は之を採用する旨決定を宣したこと並びに原審第二回公判に於て原審は鑑定人に対し単に薬品名に依る鑑定を命じたことは右第一、二回公判調書の記載に依り検察官所論の通りであることは明である。

然しながら右第二回公判に於て原審検察官は前記請求に係る薬品を提出せず、依つて原審は鑑定人の意見を聴き単に薬品名に依る鑑定の可能なことを認めたので該方法に依る鑑定を命じたところ原審検察官は之に対し何等の異議も申立てず加うるに右の方法による鑑定の結果を記載した鑑定書が原審に提出せられ原審裁判官は第三回公判に於て右鑑定書を朗読し之を訴訟関係人に提示して其意見を求めたところ原審検察官に於て何等の異議がなかつたことは右第二、三回公判調書の記載に依り之亦明瞭である。即ち昭和二十一年一月二十日以降の製造に係る「スピカール」は麻薬取締法に牴触しない旨の鑑定に接しても原審検察官に於て何等の異議が無かつたばかりで無く其後の公判調書の記載を看るも右検察官は押收品に基く鑑定の請求を再び為さなかつたことが明瞭である。依之看之原審検察官は其請求に係る鑑定の方法が裁判所に於て変更して実施せられることに就き何等の異議なく又其結果に就ても不服が無かつたものと認めるの外は無い。問題は斯る場合に於て尚原審の訴訟手続に瑕疵ありとなし以て控訴を為し得るや否やに存する。依つて按ずるに刑事訴訟法第三百九条第一項に依れば「検察官、被告人又は弁護人は、証拠調べに関し異議を申立てることができる」と規定してあるから原審が請求に係る証拠調の方法を変更して実施せんとする場合に於ては訴訟当事者は同条並に刑事訴訟規則第二百六条に基き異議の申立をすることができるのであるから原審検察官に於て萬一不服あらば遅滞なく右の方法を採るべきである。然り而して右の方法を採らなかつた場合に於ける効果如何と謂うに前記刑事訴訟規則第二百六条第一項前段に依れば「証拠調に関する異議の申立は個々の行為ごとに、遅くともその行為が終つた後直ちに之をしなければならない」と規定してあるところを看ると右の時間経過後は最早異議の申立は之を許さないものと謂わなければならない。換言すれば原審の実施した証拠調の手続は職権発動に依る以外は最早之を覆すことができないものと解釈せなければならないのである。然らば原審に於ける訴訟行為を以てしても最早覆すことのできない性質のものを控訴によつて覆すことができるものとせば前掲両法条は全く無用の存在と謂はなければならない。依之看之証拠調に関し原審に於て異議の申立が無かつた場合に於ては該証拠調を不服として控訴することは之を許さないものと解釈しなければならないから此点に関する検察官の論旨は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!